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インタビュー INTERVIEW 
12月16日(土)から公開される『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』

ホセ・ルイス・ロペス=リナレス監督 オフィシャル・インタビュー


■15~16世紀にネーデルランド(オランダ)で活躍し、没後500年のいまも現代人に強く訴えかけてくる謎の天才画家ヒエロニムス・ボス。その代表作で傑作、スペイン・プラド美術館が所蔵する三連祭壇画「快楽の園」にフォーカスしたドキュメンタリー。
ホセ・ルイス・ロペス=リナレス監督が製作の過程と作品について語った。 
                           (2017年11月26日 記)

c Museo Nacional del Prado c Lopez-Li Films
                                                            

<プラド美術館に精通しているホセ・ルイス・ロペス=リナレス監督>

■過去にプラド美術館の依頼で、収蔵作品の画家を題材にしたドキュメンタリー映画を5作品製作しました。その流れでヒエロニムス・ボスの「快楽の園」もオファーを受けたわけです。
「快楽の園」にはもともと関心がありましたが、美術史家のラインダー・ファルケンブルグ氏の『The Land of Unlikeness(原題)』を読んでいっそう好奇心が沸きました。本と出会ってから2年以上経ちますが、いまなおこの絵の不思議さに魅了されています。

■この映画が謎多き「快楽の園」と観客との架け橋になればと考えています。みなさんが謎に足を踏み入れ、謎を楽しむことができるよう、鑑賞のヒントを差し出したのです。
フランスの科学映画監督ジャン・パンルヴェの言葉に、「映画監督は興味を引かれない映画を撮ってはならない」という戒めがあります。わたしはその言葉通り、製作してきたすべての作品で、対象人物や事物をワクワクしながら撮ることを心がけてきました。
本作でも「快楽の園」とボスを理解しようとリサーチを重ね、さまざまな専門家の意見のなかから、わたしなりに発見したものを映画に盛り込みました。事実や日付にはさほど興味がありません。もちろん、この絵の歴史を語るうえで事実とデータは正確であるべきですが、わたしの役割は発見の裏に隠された作家の意図や感情を伝えることです。考古学者と発見の物語を伝えるストーリーテラーの両面を楽しみながら製作しました。

<多彩なゲストに求めたものは…>

■「快楽の園」にゆかりのある、もしくはプラド美術館とわたし自身がぜひ話を聞いてみたいと思った方々に声をかけました。ゲストに求めたのは、わたしと観客がこの絵を理解するためのヒントを提供してくれること、あるいは鋭くウィットのある質問をしてくれることのいずれかでした。

■作家のサルマン・ラシュディ氏には空振りを承知で依頼をしました。ですから、快諾の返事が来たときにはスタッフ一同が感激しました。
彼にはほかのゲスト同様に、閉館後の美術館に来てもらいました。だれもいないホールで、絵に触れそうなほど近づいて見入る姿は魔法のようでした。そういえば、彼の最新作はボスに関するものだと聞いています。

■ラシュディ氏が指摘したように、三連祭壇画は鑑賞者に多くの罠を仕掛けています。バリエーション豊かな色使いや形、淡いブルーやピンクが想像力を刺激し、難解で謎に包まれた絵を魅力的で抗しがたいものにしています。一度この絵に引きつけられたら最後、絵の世界に耽溺するのは間違いありません。

■ファルケンブルグ氏の見解では、ボスが「快楽の園」の制作を依頼された時、絵は観賞用であると同時に会話を引き出す役目を担っていました。16世紀初頭、ブルゴーニュ公国のナッサウ伯の邸宅に集った上流階級の人々は、まさにこの絵を鑑賞しながら会話していたようです。
この映画の目的は、16世紀にされたであろう会話を現代にも引き継ぎ、映画の観客を巻き込むことです。映画を観たあとに観客それぞれがこの絵と対話を始め、自分が何を欲求していて、何を嫌い、何を恐れているのかに気付くでしょう。「快楽の園」は自身の内面を如実に映し出す鏡なのです。

<監督自身が小さなカメラを携え、鑑賞者のなかに入り込んで撮影>

■.小さなカメラを抱えて、わたしひとりで鑑賞者のあいだに入ったからでしょうか、撮影にはほとんど気付かれませんでした。しかしこのシーンは撮影自体は簡単でしたが、そのあとがひと苦労でした。映画の出演許可書にサインをもらうために、スタッフが美術館中を走り回って、一人ひとりからサインをいただきました。
撮影中、『快楽の園』のモチーフがプリントされたシャツを着た女性が現れたので、絵の前に来てもらいました。実は彼女は、自分の服が目の前にある巨大な絵をモチーフにしていたと知らなかったんです!。奇跡のような偶然に気付いた彼女の驚きの表情は、この絵画が鏡としての役割を持つという比喩を実によく表現してくれました。

<エルヴィス・コステロからバッハの「マタイ受難曲」までバラエティに富んだ選曲>

■サウンドトラックは脚本と同等に重要な機能を担う要素です。音楽の力で観客の感情を意図した方向へ向かわせることができますし、対象そのものに新たな色を与えることもあります。
ありがちな古風な音楽は避け、ボスの作品同様にバラエティに富んだモダンなサウンドトラックを目指しました。製作当初からユニバーサル・ミュージック・スペインと連携していたので、シャンソン歌手のジャック・ブレル、シンガーソングライターのラナ・デル・レイ、ミニマル音楽の大家アルヴォ・ペルト、エルヴィス・コステロ、そしてバッハと、選び放題の完璧なリストを手に入れました。

<余韻を残すエンディング>

■芸術家の使命は謎を深めることにあります。哲学者のミシェル・オンフレ氏が劇中で示唆するように、芸術が持っているのは、衝撃とカタルシスを通して人間の魂に優れたものを受け入れさせる力。わたしたちはみな謎を愛し、謎を求めています。謎を巡り、謎について考え、謎を解こうと会話し、謎に決着をつけることが人生をより豊かにより興味深いものにするのです。ボスは心からそのことを理解していたからこそ「快楽の園」を世に送り出したのではないでしょうか。



■Staff&Cast

監督:ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
出演:ラインダー・ファルケンブルグ(美術史家)/シルヴィア・ペレス・クルーズ(歌手)/ルネ・フレミング(オペラ歌手)/サルマン・ラシュディ(作家)
2016年スペイン=フランス(90分) 英題:BOSCH,THE GARDEN OF DREAMS
配給:アルバトロス・フィルム
2017年12月16日(土)から
渋谷・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©Museo Nacional del Prado c Lopez-Li Films


■ホセ・ルイス・ロペス=リナレス監督
JOSE LUIS LOPEZ-LINARES

1955年4月11日、スペイン・マドリード生まれ。ドキュメンタリー作家にして撮影監督、プロデューサー。プラド美術館からたびたび映画制作を依頼されているスペインを代表するドキュメンタリー作家。高級料理の世界的コンテスト「ボキューズ・ドール」で奮闘するスペインチームを追いかけた料理ドキュメンタリー『ファイティング・シェフ 美食オリンピックへの道』(07年)などがある。撮影監督としては、イタリア版フィルム・ノワール『仁義なき街』(87年)、90年モントリオール世界映画祭グランプリを受賞した『豚と天国』(88年)、カルロス・サウラ監督の本邦未公開作『ブニュエル ~ソロモン王の秘宝~』(01年)、同じくサウラ監督の『サロメ』(03年)、同『イベリア 魂のフラメンコ』(05年)、『ベジャール、そしてバレエはつづく』(09)など。





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